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STOP! 養育費算定表改訂版の一方的な公表にストップを!

                      2019年11月20日

                          

 

 報道によると、来る12月23日に最高裁司法研修所が、従来の養育費算定表の改訂版を公表する予定となっています。従来の算定表の金額が少ないとの批判を受けて、増額の方向での改訂となるようです。しかし、当会は以下の理由により新算定表の公表を中止することを要請します。

 

一、賃金上昇に関する統計不正問題の未解決

 賃金上昇率に関する厚生労働省の「毎月勤労統計調査」において、国会で統計不正問題が議論されたことは記憶に新しいところです。厚労省は全事業所を対象とした2018年の実質賃金を前年比0.2%増と公表していました。しかし、衆議院調査局は2019年8月5日、実質賃金に関する「予備的調査」の結果を公表したところ、同一事業所のみを比較した2018年の実質賃金は17年と比べ0.4%のマイナスだったことが判明しました。統計不正問題は未だ収束を見せず、養育費の的確な算出は全く不可能です。どさくさ紛れの公表では、新算定表の正当性に大きな疑問符が付きます。

 

二、高校や保育園の無償化・低廉化による教育費の軽減

 2019年10月から保育園が無償化され、そして2020年4月より年収590万円未満の世帯について、私立高校の授業料が実質無償化する等、教育費の無償化・低廉化が進行中です。これらの無償化・低廉化は、懸命に働いて養育費を支払っている者も含め国民の税金によって実現されたのではなかったのでしょうか。さらに養育費を増額するなら、支払う側は税金と養育費という形で二重に教育費を支払わされることになります。いま、性急に養育算定表を改訂するのではなく、ひとり親家庭の生活改善に係る統計データの集積を待つべきではないでしょうか。

 

三、弁護士による養育費ピンハネ問題の未解決

 わが国では、同居親の弁護士が裁判手続で獲得した養育費を成功報酬としてピンハネすることが横行しています。この点において、日弁連は利害関係当事者と言えます。したがって先に日弁連が独自で発表した算定表には客観性がありません。弁護士の成功報酬は、養育費の30%を5年間にわたって支払う等と決められることが多く、裁判手続でも算定表通り決まることから、弁護士の食い扶持として、ビジネスモデル化している側面があります。養育費は子どもの福祉のために使用されるべきところ、社会的には高額所得者である弁護士によって食い物にされています。このことは、子どもの福祉が弁護士によって収奪されているという、利権構造の問題でもあります。アメリカ合衆国では、弁護士による養育費のピンハネが法律で禁止される等、子どもの福祉を守るための政策が実施されています。わが国でも、支払った養育費がしっかりと子どもに届くよう、弁護士による養育費のピンハネを法律で禁止すべきです。この問題を放置したまま、養育費算定表を増額することは上記の利権構造を温存・強化し、子どもの養育費からの収奪を促進することになります。法曹の一翼を担う最高裁がこうした流れに竿さすことがあってはなりません。

四、養育費支払いを強制執行しうる民事執行法の施行

 2019年の通常国会において民事執行法が改正され、2020年の5月17日までに政令で施行されることになります。これにより、未払いの養育費の回収が容易となります。改正法では、債務者の財産開示手続が拡充強化され、債権者が申し立てれば、裁判所が金融機関に命じて債務者の預貯金などの情報を取得でき、市町村や登記所などの公的機関からは土地・建物や勤務先の情報を得られるようになります。この改正法の施行により、これまで養育費を受け取れなかったひとり親家庭の生活は好転するに違いありません。まずは、この生活改善に係るデータの集積を待つべきです。

 

五、生活保護制度との不均衡

静岡市で3~5歳の子ども1名を持つひとり親家庭の場合、生活保護の金額は約17万8,280円です(静岡市の家賃補助含む)。法律上、別居親から養育費をもらった場合は、生活保護が減額されますが、養育費収入を申告せずに生活保護を満額もらい続けることが可能であり、実際に横行しています(いわゆる不正受給問題)。例えば養育費5万円を申告せずに、上記の生活保護を不正受給すると合計額は22万8,280円となります。これに加え、公団住宅に優先的に入居できる等の優遇措置もあります。他方、養育費を払う側の平均月収が36万円であった場合(サラリーマンの平均年収441万円で計算)、平均手取り額は27万円ほどになりますが、ここから家賃8万円、支払う養育費5万円を差し引くと、残りは14万円に過ぎず、フルタイム労働と家事の疲労が重なり、かなり苦しい生活となります。相当に倹約しなければ、まとまった貯蓄も不可能です。なぜ懸命に働く者が、このような生活を強いられるのでしょうか。少なくとも養育費を支払う側が支払いの事実を福祉事務所に申告し、不正受給を防止しうる制度を構築したり、福祉事務所の調査権限を強化したりする等、養育費と生活保護の二重取りを防止すべきです。これなしに新算定表の公表により養育費を増額すれば、逆差別となりえます。さらに、生活保護費の算出では家賃の有無で金額の増減があるのに、現行の養育費算定表では家賃支出による減額が無い点も不公平であり、均衡を欠いています。

 

六、養育費算定表の改訂は国会の議論を経ていない

 養育費算定表のように国民に義務を課し、権利を制限する一般的規範は、法規にあたるため、立法又はその委任により決定されるべき事項です。裁判所が算定表を定めること自体が憲法に照らして疑義があります。これに対して、裁判所の算定表は個々の裁判官が養育費請求権を形成する上での参考資料に過ぎないとの反論がありえます。しかし、別居親の多くは家庭裁判所において算定表があたかも法律のように杓子定規に使われていることを知っています。養育費を支払う別居親の中には算定表に納得せず、特別の事情を訴えて最高裁まで争った者もいますが、算定表からは一円も減額されませんでした。このように算定表は国民に養育費支払いの義務を課し、その財産権を制約する一般的規範に他ならず、法規に該当するため、立法又はその委任なくして定めてはならないものです。裁判官の参考資料と称して算定表を改訂・運用することは法の番人たるべき最高裁が自ら脱法行為を行うことにほかなりません。これでは裁判所への国民の信頼は根本から崩れます。立法又はその委任によらずして最高裁司法研修所が密室で算定表を作成し、公表すべきではありません。

 

                                                     以 上

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